昭和61年度 研究報告 大分県工業試験場
炭酸カルシウムの結晶型による重金属との反応
豊元壱夫清
章
久
辺高藤原原
池戸佐杉菅
化学部無機化学科
米庄石灰工業㈱
古手川産業㈱
l はじめに
炭酸カルシウム(CaCO
3以下炭カルと略記)はそ
の結晶構造により,三方又は六方晶系に分類される
カルサイト,斜方晶系に分額されるアラゴナイト,
六方又は擬六方晶系に分類されるパテライトの3つ
の結晶型に分けられる1〉−2)。
カルサイトは石灰石として自然界に多く分布し,
アラゴナイトは真珠・サンゴやある種の貝殻として
存在する。パテライトは特殊な事例を除いては天然
には存在しない。
この3つの結晶型中ではカルサイトが常温・常圧
下で最も安定した型であり,アラゴナイトは常圧下
で4400C以上に加熱するとカルサイトに転移する。又
パテライトは非常に不安定で水中では数時間でカル
サイトに転移する。
炭酸カルシウムを安価な重金属の吸着材として産
業排水処理に利用しようとする試みは,現在複数の
工場における実施例が報告される段階に至ってい
る… )
。しかし,これらは何れも原料として,天然の
多孔質材料であるサンゴ石灰をそのまま,もしくは
熱処理した後に粉砕・分級したものを利用している
ため,製品が砕片や粒状物に限られ,且つ微細な細
孔が得られない欠点を有する。
そこで当試験場では,逆に粉体の炭カルを原料と
し造粒申加圧成型等により人工多孔体を造り,これ
を吸着材として利用することを考え,昭和60年度に
試作品の製造とその吸着実験を行い良好な結果を得
た。このことは前報に於いて報告した通りである9)。
前報では多孔体の表面積が大きい程重金属の除去
が有効であることを実証した。ところがこの実験の
過程で重金属によっては試料(炭カル)の,表面積
− 78
の大小に併せて,結晶型の違いによりその除去反応
に差異が生ずる場合があることが判ってきた。
そこで本年度は炭酸カルシウムのカルサイト・ア
ラゴナイト・パテライトの3つの結晶型から2種づ
つ計6種の試料を用意し,重金属の除去に対する各
結晶型による差異の実験を行ったので,その結果を
ここに報告する。
ⅠⅠ試料。試薬
実験には各結晶型執こ2種,計6種の試料を用意
した(表1)。
表1 試料の略号と種別
結 晶 型 (略号)試料名 (Aツ1)サンゴ石灰岩砕粉 アラゴナイト塾
(A−2)合成アラゴナイト
(C−1)津久見石灰ホ砕粉 カルサイト型
(C2)コロイド炭カル
(Ⅴ∵1)合成パテライト.1
パテライト塾
⊇ n
1.アラゴナイト型試料(写真1)
(A】1)沖縄産のサンゴ石灰岩を粗砕後水洗した
のち微粉砕したもの。
粒径約1【… −20/ノm
程度,不規則な角ばっ
た粒子(−一部にアラゴナイトの柱状構造
が見られる 写真→)
(A¶ 2)特開「昭54−50499」〔7)方法に基づいて試
製したもの(かレサイトを10%程度含む)
0,2∼0.3/J m幅の柱状粒子が数十本束に
なった幅1.5∼2/J m
,長さ5〟m
程度の
棒状粒子
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2.カルサイト型試料(写真2)
(C、1)津久見産の石灰石を粗砕後水洗したのち
微粉砕したもの。
粒径約i 20/J nl 程度,不規則に角ばっ
た粒子
(ニC 2)バッチ法により試製,乾燥同化した製品
を微粉砕したもの。
0.05ノ∠nl 程度の一次粒子(立方体)が凝集
した9 数∼数十〟m
程度の凝集体
写真2 試料C−1,C−2(じal c舶型)
3.パテライト型試料(写真3)
(Ⅴ1)井上,他岬や宮出,他11)らの法に基づいて
試製したもの。
粒径5/川1前後を中心とした球状粒子
が単独,或いは数個の凝集体
(\ト2)60年度業務年報特別研究報告「バナライ
ト型炭酸カルシウムの合成方法」9)に基
づき試製したもの。
粒径1〃111締後の均一な球状粒子
Vw
2(Vat e再e型)
(1.5∼2ミリモルノ′ ′ ′ ′ J )を800汀11取り,これに精秤
した試料2gを入れマグネチックスターラ」で試料
が沈降しないように撹拝した。ここから適時20ml 程
度を取り,直ちにメンプレンフィルターS瓦′ ‡ 1ユ3−
06(ザルトリウス社)9 AO45AO47J ゝ(東洋ろ紙)予 或
いは定量ろ紙No,5C(東洋ろ紙)を用いてろ過し,
ろ液中の金属イオン濃度を原子吸光分析装置(島津
AA6nl )によって測定した。また,試験終了時王は
残った溶液全量をろ過し,固形分についてはⅩ繰回
折装置(理学電機製 ガイガーフレックス)によっ
て生成物細司定を行った。
t )Hは試料投入前と試験終 ̄√時の二度測定した。
重た,試料の比表面積の測定には迅速比表面積判
定装置(柴田科学梨 SA川00型)を使用したt )
尚,塩化亜鉛と塩化鉛の高濃度溶液での試験には
写真3 試料V脚且,
これらの試料は何れも乾式で‘ 44/川1のステンレス
製のふるいを通過したものを試料とした。
試薬は和光純薬製の塩化ニッケル,塩化銅,塩化
カドミウム,塩化鉛,塩化亜鉛の特級もしくは一級
試薬を水溶液として使用した。但し塩化亜鉛では水
取化亜鉛の沈澱を防ぐた捌こ塩酸を少量加え弱酸性
とした,又塩化鉛では一度ろ過したものを使用した。
重金属溶液は使用時の1n倍の濃度を調整し実験の
際に希釈して使ノ同した。但し,塩化亜鉛及び鹿化鉛
の高濃度溶液での実験の際は必要量を一度に作りそ
れを分注して使用した。
I l I 試験方法
昭和61年度 研究報告 大分県工業試験場
直径約7cm
の円筒管を使札重金属溶液400m
l に精粋
した試料0.5gを投じて行った。
表2 各試料のBET比表面積
11、結 果
・.・ト
巨ズ=に示されるように試料(V2)の除去量が最
も多く,試料(C2)がこれに続く,試料(Al ,A2,
C盲,Vl )であまり除去されなかった。
表2に各試料の比表面積を示す。
6試料中,試料(㌔r 2)の比表面積が最も大きく,試料(C2)がその
2分のi ,試料(Al ,A2,Cl )が約20分の1,試料
(も71)が約130分の1となっており除去反応の結果
と一致している。
すなわち比表面積の大きな試料ほど除去量が多く なっていることから嗣イオンの除去に関しては比表 面積が支配的要因であり試料(炭かレ)の結晶型に
は影響されないと考えられる。
(比表面積単位m2′ ′ /g)
2。ニッケル
図2に示されるように反応初期においては鋼での
それと近似して,除去量が比表面積に比例する傾向
が見られるが,時間の経過につれてかレサイト型試
料(Cl ,C2)の除去量の増加が頭打ちとなり,反応
開始から15分経過後にはより比表面積の小さなアラ
ゴナイト型試料(Al ,A2)及びパテライト型試料
(Vl )の方が除去量が多くなっており,結晶型によ
る差異とも考えられる。しかしニッケルの場合全体
として除去量が少なかったため分析誤差等を考慮し
て今回の実験のみで結晶型の差異が影響していると
は断定しにくい。
0 5
10
15
反応時間 (mi n)
図2 ニッケルの除法
0 5 10
15
反応時間 (mi n〉
図1嗣の除法
(Mar k:SaMPt ei ni t i al pl 卜f i nal pH) ○;糸−15.0】6。1 ⑳:A・2 4。9w6.2 □:C−15.2−6.1.圃:C【2 4.9▼ 6・3 △ :Ⅴ−14。96。1 息:V−2 5.1−6.9
ヽノ
H
P
︵○ロ△
i ni もi al pH − f i nal
e n r ⋮‖ a S k r a M
ハ
‖ U 6 n U ︵ l
一〇
7
0
〇
一
︼
一
1
エ
ハ=
V
一
1 5 5 5 2 2 2 + A
沌
ハし
V
専野ふ
6 6 n U 7 7 0 U 6 5 1 5 5 5 1 A j l l
■ハ
︹し
=‖▼
3。カドミウム
図3に示されるようにアラゴナイト型試料(Al ,
A2)が非常に高い除去量を示しており,カドミウム
では除去反応に対し,比表面積による影響以上に,
結晶型による影響が大きいことがわかった。
︵ミ︻○∈
M
嶺︶慧警セニ忘γ言奉蓋違
0 5 10 15 反応時間 (mi n)
図4 鉛の除法
SanPl (!i ni t i al pH r i n∂1pH
︵○□△
﹁ヽ
U O n U 7 7 8 2 1 k ■ r l ▲ H a M
7.4 ●
:A2 2.8
C−12.8−7.3 顎:C−2 2.8
V−12.8− 7.6 底ニ V−2 2.8
0 5 10反応時間 (mi n)
15
︵ミ盲
M
〇
l
︶蛍璽㍉東芸冨羞違
図3 カドミウムの除法
(M
ar k:Sam
pl ei ni t i al pI i f i nal
ヽ/
‖
n
P
6
っ.
U
2
7
6
7
一一
3 2 3 5 5 5
Å−15.3■、・一 ⑳:A2
○□△
2
2
∵
へ■ヽ
〓
V
C−15.3−6.3 感
V−15。2−6.8 息
4,鉛
図4に示されるように鉛は低濃度溶汲では全ての
試料で15分までに全量が除去された。そこで鉛(及
び次項の亜鉛)では高濃度溶澱での試験を併せて行
った(図5)。
囲5に示されるように試料(Vl )は比表面積が6
試料中最小の試料であるが,同じパテライト型結晶
の試料(\r 2)に次いで多い除去量(20分で最初の鉛
量の90%以上)を示し,鉛に於いてもカドミウムと
同様に結晶型による反応の差異が認められた。
炭カルによる重金属除去の機構については,イオ
ン化傾向♂)大きなカルシウムが重金属水溶液に溶解
することにより,重金属が不溶性の炭酸塩となって
==。====て=∃=二 60
0。○
○
反応時間(mi 。)
図5 銘の除法(高濃度溶液)
析出するという陽イオン問の置換反応によって説明
されておリ3∼… 2),後述するように,本実験において
も Pl 〕CO3が生成物として得られ美が,高濃度溶液
での試験では最初の溶液中の鉛量と投入した炭カル
小のかレシウム量がモル数でほぼ等量であったにも
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順で除去量が多くなる傾向がみられる。試料(A2)
はアラゴナイトを主体に10%程度かレサイトを含ん
だ試料であるが,その反応前後のX線回折の結果(図
8)をみると,アラゴナイトのピークが反応後には
完全に消失しているぴ)に対し,カルサイトのピーク
は反応の前後で大きな変動をみせておらず,この事
からも,亜鉛の除去に於いて結晶型の薫異が大きな
要因となっていることがわかる。
C2)し9残りの試料に於いても反応が進行中であっ
たことから9炭カル中のかレシウムは,頼終的には,
全て鉛と置換し得るものと予想される。
従って鉛汀)除去反応に於いては結晶型による反応
の差異は,カドミウムの場合のように除去量の違い
としてでなく,除去速度の違いとして視れる。
5。亜 鉛
亜鉛も鉛と同様9 低濃度と高濃度での試験を行っ
→上っ ノー〇
図6に示されるように低濃度溶液での試験で試料
(ノ㌔1,A2,Cl ,、r l )に於いて数分F乳 反応が一旦停
止する期間がみられた。図7に示されるように他の
2試料(C2,\r 2)についても同様な現象が高濃度溶
液に於いてみられたことから炭かレと亜鉛との反応
は初期反応。停止斯巨主反応の3段階から成るもの
と考えられる。
︵ミー。∈”○〓触璧ヽ女†豪儀至芸サ璧 0 0
60
反鳥芯時間 (mi n) う0
図7 亜鉛の除去(高濃度溶液)
C
0 5 10
15
反応時間 (ml n)
図6 亜鉛の除去
4
i
n
O
﹁・・
﹁−
﹁・
H
p
〟
a
︹り
5
5
∩
・
.
1
J
l
t
l
J
l
t
P
T
⊥
一
2
2
り山
A
C
V
(甑r k:Sa叩1ei ni t i al pH
良14。5 − 7。2
■.≠
○□△
l
−−ふ
C
V
図8 亜鉛除去反応前後の×
繰回折図
(試料A2)
除去置と結晶型との関係については図7に示され
るようにパテライト,アラゴナイト,カルサイトの
6.試験後の試料のX繰回折分析結果
試験後の試料に対しⅩ線回折装置で生成物の同定
を行った。結果を表3に示す。
銅及びニッケルに於いては何れの試料でも明瞭な
ピークは認められなかった。
カドミニウムでは除去量の多かったアラゴナイト
型の試料(Al ,A2)でCdCO3の明瞭なピークがみら
れたが,その反面,これらに次いで除去量が多かっ
たパテライト型の試料(V2)に於けるCdCO
3のピー
ク強度は,除去量が最も少なかった同じパテライト
型の試料(\r l )と同程度の弱いものであった。さら
にかレサイト塾の試料(Cl 、C2)ではCdCO
3のピー
クは認められず,除去量とピーク強度とは必ずしも
一致していなかった。
カドミニウムに於いては,結晶型の差異により除
去反応の機構そのものが異なるという報告12)もあ
り,このことから除去量とピーク強度との不整合を
説明することも考えられるが,今回の実験のみで結
論を出すには妻らなかった。
鉛の低濃度溶液での試験では1試料を除いて何れ
もPbCO
3が生成した。試料(㌔r 2)のみ主)b。(CO
3)2
(0I Y主)2が生成したが,これは ①試料(Al ,C2,Vl )
に於いても,溶液を水酸化ナトリウムで中和し,除
去反応を pl l 中性から開始させると Pb。(C(〕3)2
(し)H)2が生成した ②高濃度溶液では試料(V2)で
もPbCO
。が生成したことから,生成物がPbC(〕3と
Ⅰ)b3(CO
3)2(O
H)2のどちらになるかは,反応初期の
pHによって決定されると考えられる。
また,鉛の高濃度溶液では試料(Al ,Cl ,A2)の
3つの試料で,同一の,強いど」クが得られたが,
該当物質の特定はできなかった。3つの試料とも液
相中に未反応の鉛を残し,反応途中であったことか
ら未知物質はi )bCO。への叶† 間形態と考えられるが,
液相中の鉛及びカルシウムイオン濃度の測定値から
推測すると,鉛と炭酸基の比が2:1の化合物であ
■ ■ ふノ0
亜鉛は,低濃度液では明瞭なピークが得られなか
ったが,高濃度では何れもZn4CO
3(O
H
)6H
20ピー
クが得られた。
表3 試験後試料の×
繰回折結果
十+【 r 」 ・ て
ト十 十十 i †
ト ,・・・
Pb1〕1〕3(CO3)2
(0‡i )2
PbCO
3
同定不能
+ 】+ −
十十+ 十一一十
Pb(H) +十十 +−十 十十 十十+
Zl l ;CO。(OH)6
11.= 十十 十+ト + 十− ぎ 十+十
」
十+ :ニ十,十−イ)中位
:Ⅹ線強度弱い
:Ⅹ線強度かなり弱い :明瞭なピークは認められない
(H) 高濃度溶液
Ar a :Ar agoni t e型 Cai :Cal c i t c 型
\’ at :1r 之1t ef ・i t e塑
Ⅹ根強度非常に強い Ⅹ線強度強い
十」1
昭和61年度 研究報告 大分県工業試験場
りも,試料の結晶型の違いの方が除去量および除去
速度に強く影響することが判った。
もr おわりに
重金属の除去に及ぼす炭かレの結晶型の影響につ
いて5種の金属の塩化物水溶液で試験を行った。そ
の結果ラ
i )鋼の除去竜は試料の比表面積に比例し増加す
? /Oc
2)ニッケルも比表面積に比例するが,カルサイト
型の除去量が他に比べ少なくなる傾向がみられ
る。しかし9 各試料とも全体に除去量が少ない
ため確定的な傾向ヒはいえない。
3)カドミニウム‡ まアラゴナイト型により除去され
易い。
4)鉛は全般的に除去され易いが中でもパテライト
型が最も除去速度が速い。
5)亜鉛も全般的に除去され易いがパテライト型い
カラゴナイト型。カルサイト型の順で除去され
難くなる。
最後に,ニの実験に使用した走査型電子顕微鏡は
日本自転車振興会から競輪収益の一部である機械工
業振興資金の補助を受けて設置したものである。
ⅤⅠ参考文献
1)石膏石灰学会編 「石膏石灰ハンドブック」技
報堂(1972)
2)石灰石工業協会 ∼石灰石の用途と利用」石灰
石工業協会(1986)
3)島田 欣二「石膏と石灰」沌).199(1985)
4)三ケ島裕茂 特公報 昭和58−177‖
94
5)須藤 儀一 特公朝 昭和5124824
6)梶山 義明 特公報 昭和5112357,昭和52−
5183
7)椎名 周遵「PPM
J N
o.12(1986)
8)椎名 同道「PPM
」N
o,8(1987)
9)大分県工業試験場 昭和60年度業務年報
10)井上 嘉亀 他「表面一 7−665(1969)
11)宮田 謙一 他「日化」732(1976)
12)高橋 聴 他「石膏と石灰」 N
o.205(1986)
以上しりように本案験により炭カルによる除去量が
少ない金属(鋼,ニッケル)では除去量は試料の比
表両横に支閂己されるが,除去され易い金属(カドミ
ニウム9 鉛,亜鉛)では,試料の比表面積の大小よ